外国から輸入される食材や食品が増えたことで、日本でも残留農薬についての意識が高まってきています。残留農薬のチェックは、販売店や飲食店にとってもひとつの課題になりつつあるようです。ここでは、厚生労働省が発表しているポジティブリスト制度の概要を説明しながら、残留農薬のチェック方法について解説していきます。
2006年からスタートしたポジティブリスト制度
ポジティブリスト制度は、2006年から新たに施行された国の制度です。この制度では、合計で799種類の農薬や動物用の医薬品、飼料添加物が規制の対象です。対象物質が一定の割合で含まれている食材や食品を販売することは、ポジティブリスト制度では禁止されています。
制度はすべての食品に適用されるため、野菜などの食材はもちろんのこと、加工された食品を取り扱う場合も残留農薬などが基準値を超えて含まれていないかどうかをあらかじめチェックしておく必要があるでしょう。ポジティブリスト制度では、いずれの食品についても人の健康に害を及ぼす恐れがない量を基準値にしています。
このような量は、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を元に定めます。
ネガティブリスト制度との違いは?
ポジティブリスト制度は、それまでのネガティブリストの制度とは基本的な考え方が異なります。ネガティブリスト制度は、農薬などの残留してはならない一部の物質を指定して規制する制度です。この制度では、指定された物質以外については規制の対象になっておらず、現実的には残留が認められていたと言えます。
ポジティブリスト制度は、ネガティブリスト制度とは逆に残留は原則として認めない立場を取っています。残留してもよい物質のみを指定して規制をかける点が、ネガティブリスト制度と大きく異なるところです。ポジティブリスト制度では、ネガティブリストで基準が定められていなかった物質についても、新たに基準値が定められました。
また、ネガティブリストでは対象外だった加工食品も、ポジティブリストではチェックの対象になっています。
ポジティブリストの基準
ポジティブリスト制度で採用されている基準には、残留基準と暫定基準、一律基準があります。残留基準は、食品衛生法で定められた基準のことです。暫定基準には、コーデックス基準、登録保留基準、海外基準の3種類があります。
コーデックス基準は、世界174カ国と欧州共同体が加盟する食品規格委員会(CAC)が定めた国際規格です。登録保留基準は、国が定めた基準です。登録保留基準の対象になる農薬などは、審査で登録が見送られています。
ただ、登録保留基準の範囲内であれば、食品衛生法で定められた限度量を超えていないとみなされます。海外基準は、外国で定められた基準のことです。ポジティブリスト制度では、残留基準、暫定基準の順で適用されていきます。
暫定基準がとくに定められていない農薬などは、一律基準によってチェックがおこなわれます。一律基準は、人間の健康に害を与える恐れがない量が基準値です。この基準値は、薬剤の許容量などを踏まえたうえで0.01ppmに設定されています。
加工食品のチェック方法
加工食品の場合、暫定基準が設けられていればその基準値を満たしているかどうかを判断します。加工食品のほとんどは暫定基準が設けられていませんが、オリーブオイルや干しぶどう、りんご果汁などの一部の加工食品については基準があります。
こういった食品の場合は、規定の暫定基準を超えているか否かをチェックすることが必要です。暫定基準がない加工食品は、原材料がチェックの対象になってきます。例えば冷凍のほうれん草などは、原材料に使われているほうれん草の残留農薬が基準値を超えていなければ、問題なく流通させることが可能です。
うどんの場合も、原材料である小麦の残留農薬がチェックの対象です。加工されたうどんに小麦が何%の割合で含まれているかがわかれば、基準値を超えていないかどうかがだいたい確認できるでしょう。
基準を超えた場合は処分の対象になる
販売した食材や食品に基準値を超えた残留農薬が含まれていると、食品衛生法の処分の対象になります。また、加工された後の食品から残留農薬が検出されなくても、原材料に基準値を超えた残留農薬が含まれているときには処分の対象になる可能性が高いです。
こういったケースでは、加工のプロセスなどを考慮しながらチェックがおこなわれます。ただ、残留農薬が基準値を超えている材料を使用した事実が明らかだと、処分を逃れるのは少し難しいかもしれません。何らかのきっかけで問題が発覚した場合は、行政処分を受けるだけでなく商品の回収などもおこなう必要がでてきます。
コストがかさむのを避けるためにも、取り扱う加工食品にも十分に注意をする必要があるでしょう。
処分を避けるための対策1「加工係数を利用する」
ポジティブリスト制度で処分を受けないためには、加工食品の原材料についてしっかりと残留農薬のチェックをおこなうことが必要です。加工食品のチェックをおこなう際に役立ってくれるのが、加工係数です。科学的な根拠に基づいた加工係数は、厚生労働省でもひとつの目安として利用することを認めています。
加工食品に使用されている割合や濃縮率などをもとに、おおよその含有量が把握できれば、検査機関に依頼をする前にある程度のチェックができるでしょう。事前のスクリーニング検査としても、加工係数を参考にする方法は有効です。
処分を避けるための対策2「検査機関を利用する」
問題になる残留成分が含まれていないかどうかをしっかりとチェックしたい場合は、専門の検査機関に依頼をするのが確実な方法になるでしょう。残留農薬を検査する専門機関は、全国各地に点在しています。このような検査機関では、ポジティブリスト制度に関する相談もできる場合があります。
例えば、ある検査機関ではポジティブリスト制度についての疑問や質問などを電話やメールで受け付けています。こういったサービスを活用して気軽に相談ができれば、処分の対象にならないような方法が講じられますよね。
検査機関での残留成分の検査は通常は有料ですが、調べる項目については専門家からアドバイスをしてもらえるケースもあります。ポジティブリスト制度では、799種類もの膨大な農薬や動物用医薬品などが対象になっています。
調べたい物質の検査に検査機関が対応しているかどうかや、検査の精度などもあらかじめよく確認しておいたほうが安心です。厚生労働省の登録検査機関なら、安心して利用ができるでしょう。